ちょっともう限界だ


三輪中いじめ自殺事件,連日ものすごい報道振りだね.最近になって,こういうのを見てやっと分かってきたよ.俺がどういうときに不快感を感じるかを.結論から言えば,「厳密に検討されるべき問題を感情論で押し潰そうとしている場合」なんだろうな.今回のはまさにこれだった.びっくりしたよ.書こうかどうかずっと迷っていたが,もうリミットブレイクだ.

元担任教師がどうしたこうしたとかはもう言及しない.莫大な数の新聞記事,テレビ報道,ブログ記事,掲示板書き込みがこの教師がどれだけ人格的におかしかったかを論っているため,ここで改めて言う意味がほとんど無い.まあひどい人物だったことは確かだ.ただしあくまで情報とその伝え方が確かだった場合に限定するけど.学校側のへぼアンケートや数回にわたる見解の反転などももういい.


問題点はいくつもある.一つは,何もかも全てをこの教師の責任として押し付けようとしていることだ.この教師が教師であるにもかかわらず生徒をいじめていたことはわかった.しかし,それと自殺との因果関係はまだ結論が出せるレベルではない.それにもかかわらず,教師が生徒宅に行った時点で既に大部分のマスコミは「いじめはこの教師が発端」と言っていた.発端という言葉は,「物事の始まり」を指す.生徒家族も,「お前のせいだ」「鬼」と言っていた.この時点でいきなり検証なしに「自殺の原因は教師」という構造が出来上がっていた.小5の時点からいじめられていた事実*1自殺前にトイレでズボンずり下げられていた事実*2など多くの事柄を一切無視で断定である.俺はこんな暴力的な論理にはとうてい賛同できない.実際に他にいじめていた生徒はなぜ何も言われないんだ?何人か謝罪しにきているが,(教師悪役フィルタのために本当はどんなことを言ったかは分からないが)結局教師に全ての原因を帰属している*3.この教師謝罪のときとの扱いの違いはなんだい?なぜ,「謝りに来た子たちの行為が自殺の原因と結び付いているかどうかは分からないが、子供たちも悩んでいるようだ」と,教師の方にも当てはめて考えようとしないんだ?子供たちは糞教師に操られていたから仕方ないとでも言うのか?中学生にもなって自由意志も判断能力もないと言うのか?意思無能力者認定か?つまり中学生生徒はキチガイか?

つまり,二つ目の問題点とは,この教師を非難した時点で思考停止していることだ.自殺動機(自殺に限らないが)は「自殺の準備状態 * 直接の原因」つまり動因と誘因の積として考えられている.さて教師の言動をこれにどう位置づける?今のところ因果関係が教師一人のせいということになっているので,動因も誘因も教師がもたらしたことになるけどほんとうにそれでいいのか?デュルケムは,自己本位的自殺は「人々がもはや自分の生にその存在理由をみとめることができないところから発生し,人間が社会から分断された状態になり,集合的エネルギーが失われる」ために生じると考えた.子供のアイデンティティ形成失敗とともに社会的孤立化は大きく関わっているはずだ.では社会の最小単位たる家族についてなぜ言及されないのか.少年期の自殺とは家族への心理的復讐とも言われている.なぜなら人格形成のもっとも重要な要素は家族であるし,当然子供はその形成結果の原因帰属を家族に求める.(教師が生徒にばらすという糞行為はもちろん糾弾されるべきだが)自分の子供のエロサイト閲覧を教師に相談した親はどうなのか?こういうのは親子間のコミュニケーションの中で解決するか,そもそもエロサイト閲覧など問題行動でもなんでもないので相談すること自体どうかしている.

三つ目は,こうした家族の過剰な心配,過保護な検疫による心理的無菌化だ.「有害情報」とされるものやちょっとした衝撃事態から,子供はすぐに遠ざけられる.こんなことを続けていると当然心理的な免疫システムが形成されることはない.するとちょっとしたショックによってもすぐに大ダメージを受けるような心理的な弱体化が生じる.つまり閾値が低下する.さっきの「自殺の準備状態 * 直接の原因」の積がすごく低くても自殺しやすくなる.まさに恒例ともなったこの現象が全てをあらわしている*4.もうスクールカウンセラーなど出すな.問題でもないものに診断名をつけて問題にするな.対処法だけで見た感じのケアをするんじゃなく,環境から変えて根治を目指せ.カウンセラーなんかに見せるくらいなら,せめて家族で真剣に話す機会を設けることだ.こういうときに「専門家のほうが...」と短絡的に全てを人任せにするからますます子供が孤立化するんだ.学校休ませるんだったらその分家族で話せ.子供が嫌がっても話せ.世間話でもいいから.

上でも少し述べたが,俺が一番気がかりなのは,マスコミが今回のスクラム報道で何をしたいかだ.少なくともマスコミの批判の全ては教師と学校に向いている.そして,入院した教師には非難続出*5.さて,これで先生が自殺したらどうするんだ?今度は誰のせいなの?誰が責任取るの?それとも生徒を殺したも同然との糞教師は死んで当然なので万事解決一件落着か?マスコミは仇を取りたいのか?いじめ自殺を無くしたいのか?もし後者なら今度はマスコミがいじめたことになって本末転倒だが.何をしたいのか見えない.もはやマスコミが「事実を伝える」だけの役割を果たしていないのは自明であり,大いに主観の入りまくった記事を書いてくる.すなわち,主観を元に取捨選択して情報を集め,誘導的な文章でそれを呈示してくる.今回の事件報道の目的は何なんだ.そして今の報道の仕方はその目標に合致しているのか.

長々書いたが,一番言いたいのは,腐れ教師にばっかり執着してないで,冷静に,視野を広げて見てみろってことだ.確かに感情喚起がその対象に注意を自動的に誘導することも既に心理学的に証明されていることだが,感情ではなく論理で議論しなければ,まだまだこの種の事件は続く.表面的な,見えるものばかり見ようとしても何も解決しない.今の学校がいじめを見抜けなくて悪いというだけの考え方ならば,(学校内での)いじめ問題の解決方法は全部屋全方位に監視カメラつけて常にモニタし続けるしかなくなるが,それでいいのかい?しじんの部屋と同じことになるが...どうせそういう処置をとっても文句言いまくるんだろ?人権がどうのこうの言ってな.

何かを守るためには相応のコストが必要だ.それを全て学校に放り投げてしまってうまくいく訳ないだろが.糞教師なんかじゃなく,自分の子供を正面から見ろ.

*1:<福岡いじめ自殺>「小5からいじめ」同級生が遺族に伝える

 いじめを苦に自殺した福岡県筑前町立三輪中2年の男子生徒(13)が、小学5年の時からいじめを受けていたことが分かった。自殺の直前まで男子生徒から相談を受けていた同級生2人が16日に生徒の両親らに伝えた。いじめは小6になっていったん収まったが中学になって再発し、男子生徒を追い詰めた。心配する同級生に、男子生徒は「親が心配するから」と口止めしていたという。
 男子生徒の祖父によると、男子生徒は小5のころクラスの雰囲気を明るくしようと、教室内でよく友人を笑わせようとしていた。しかし、そのためばかにするようなあだ名を付けられ、中学校では「目障りだ」などと言われたり、机に「バカ」と書かれたこともあったという。
 男子生徒の父(40)は17日に「わが家で一番大切な希望を奪われました。なぜ、息子は狭くて暗い倉庫で、一人で命を絶たなければならなかったのか。私たちは知りたい」「それをすることが、いじめなどにより、二度と同じ悲劇を繰り返さない、そして、二度と同じ家族を作らないことだと信じます」などとするコメントを出した。
 一方、福岡県筑前町は17日、調査委員会を設置することを決めた。同日あった町議会全員協議会で手柴豊次町長が報告した。調査委員会は教育委員やPTAら10人程度で構成され、関係者から順次、事情を聴く方針。
 同協議会には中原敏隆教育長らが出席し、中原教育長は男子生徒が自殺するまでの経緯について「他の生徒が男子生徒を無視したことや、前担任の言動が自殺の要因になった」と説明したという。町には17日現在で学校や教育委員会を批判するファクスやメール、電話が3000件近く寄せられている。【川上敏文、高橋咲子】
毎日新聞) - 10月17日23時27分更新

*2:福岡いじめ自殺 生徒、当日5回も「死にたい」と話す

 
 福岡県筑前町の町立三輪中2年の男子生徒(13)がいじめを苦に自殺した問題で、同中の合谷(ごうや)智校長らが14日記者会見し、生徒が自殺した11日に授業時間中や昼休みなどに計5回、「死にたい」と話していたことを明らかにした。さらに、下校直前に生徒7人にトイレで「(死にたいのは)うそだろう。下腹部を見せろ」とズボンを下ろされそうになっていたことを認めた。合谷校長は「トイレの事件が自殺の要因の一つになった可能性もある」と話した。学校側はこの事実を13日までに確認していたが、「聞かれなかったから」として公表していなかった。
 合谷校長によると、男子生徒は11日は1、3、5時限の授業中に周囲の生徒に聞こえるように「死にたい」と漏らしていた。発言の内容が分からず私語だとして「集中しなさい」と注意した教諭もいた。また昼休みにも「死にたい」と話していた。
 6時限目の美術の時間には、スケッチブックを忘れてきたため、クラスの生徒から借りた。それに「遺言 お金はすべて学校に寄付します。いじめが原因です」などと書いた。貸した生徒は冗談と思っていたという。遺書は学校のスケッチブックの他にも、プリントの裏などに書かれ、計4通あった。
 6時限目終了後にトイレで7人の男子生徒に囲まれた時も「死にたい」と漏らすと「うそだろう。下腹部を見せろ」と言われ、ズボンを腰のあたりまで下ろされそうになったという。男子生徒はその後家に帰り、自宅の倉庫で首をつって自殺した。合谷校長は「徐々に気持ちが高まっていったのかもしれない」と話し、トイレの事件が自殺の引き金になった可能性に言及した。【川上敏文】
毎日新聞) - 10月15日10時12分更新

*3:<いじめ自殺>子供たち謝る「悪いこと言ったかもしれない」

 福岡県筑前町立三輪中2年生の男子生徒(13)がいじめを苦に自殺した問題で、複数の同級生らが、遺族に「悪いことを言ったかもしれない」と謝っていることが分かった。男子生徒の父親(40)が報道陣に明らかにした。
 父親によると、同級生や別の学年の生徒らが、焼香に来た際、男子生徒の自殺を気にかけている様子で、父親に謝罪したという。また、1年生の時、当時担任だった学年主任(47)が、男子生徒をからかっていたことから「自分らもしてもいいと思った」とも受け取れる趣旨の内容を話す生徒もいた。
 父親は「謝りに来た子たちの行為が自殺の原因と結び付いているかどうかは分からないが、子供たちも悩んでいるようだ」と話している。【結城かほる】
毎日新聞) - 10月21日13時38分更新

*4:筑前・いじめ自殺から1週間 悩む生徒、地域 欠席続出、祭り中止 住民有志が公開討議へ

 福岡県筑前町の三輪中学校2年の男子生徒(13)が、11日にいじめを苦に自殺したとみられる事件から約一週間。同級生による悪質ないじめや、元担任教諭によるいじめを誘発する言動が明らかになる中、学校では精神的ストレスから学校を休んだり、体の不調を訴えたりする生徒が相次いでいる。ここにきて情報を公表しなくなった学校側に住民も不信感を募らせるなど、波紋が広がっている。

 「3年生は高校受験を控えている。勉強しやすい環境を整えなきゃいけない時期なのに…」。同校に通う娘を持つ母親は声を落とした。

 同校ではショックから体の不調を訴える生徒が続出。多い日で約20人、平均でも十数人が連日欠席している。現在、県教委から派遣された4人のスクールカウンセラーが全校生徒(425人)を対象にカウンセリングを実施しているが、面談の途中で突然泣きだしたり、「眠れない」と訴えたりする生徒も少なくなく、継続的なカウンセリングが必要という。

 学校や町教委には全国から電話やメールが殺到。「なぜ学校はひどくなるまで気づかなかったのか」など大半が怒りや抗議という。同町では来月、恒例の「どーんとかがし祭」の開催が予定されていたが、町などでつくる実行委員会は「事件で町の一体感が失われている今、祭を楽しむ雰囲気にない」と中止を決めた。

 生徒や保護者への過熱取材を懸念し、同中父母教師会は報道各社に取材自粛の要請を出したり、全校生徒に取材拒否カードを配布したりしたが、逆に「真実が覆い隠されるのでは」(住民)との懸念も広がり始めている。「包み隠さず真実を明らかにしたい」として学校が始めた記者会見も数日、中断したままだけに、「取材に応じないことがかえって混乱に拍車をかけている」(別の住民)との批判もある。

 こうした状況の中、住民の間では事件に向き合おうという動きも。同世代の子どもを持つ母親など住民有志でつくる「ちくぜん子どもネット」は、21日に町民が事件について考える公開フォーラムを同町女性センターで開催する。稲永正子代表(47)は「子どもたちの不安は今ピークに達している。自分たち大人に今、何ができるのか考えたい」と話している。

=2006/10/19付 西日本新聞夕刊=
西日本新聞) - 10月19日17時7分更新

*5:福岡のいじめ誘発した教諭が入院
 福岡県筑前町立三輪中学校2年の男子生徒(13)がいじめを苦に自殺した問題で、いじめを誘発する言動があった1年生時の担任で現在2年の学年主任を務める男性教諭(47)が、精神的ショックで入院したことが18日、分かった。

 町役場や町教育委員会には苦情や抗議の電話、メールが相次いでおり、18日までに計約3300件に上った。厳しい抗議がほとんどだという。

[2006年10月18日19時55分]