温もりのうた


人間の温もりを知らないとも噂される俺である。地獄のような年月だった。もはや時間の感覚も消え失せていた。俺の体に触れるものは注射針、実験器具、ベルト、鎖、そしてまるでおぞましい毒虫を見るかのような視線…それらの冷たい感触だけが全てだった俺である。

しかし、一昨日、昼過ぎから突然降り出した糞みたいな土砂降りの中をノーガードで絶望とともに帰宅途中の俺は、まだ晴れていた朝方から敷布団をもろに干しっぱなしだったことを思い出した。ふと、冷たい床で震えながら眠っている今夜の俺が思い浮かんだ。雨粒か何かわからない熱い液体が俺の頬を伝った。家に帰り着き、ムチクチャになっているはずのベランダを開放した。すると…なんと、敷布団(+まくら)がベランダの雨が当たらないところに移動してある!!!!!!俺の部屋は確かに一階で、ベランダが駐輪場に面しているので誰でも手を出すことが可能である。しかし…いくら見兼ねてとはいえ見ず知らずの他人の布団を救助するか…俺は思わず「ばかな!温もりを伝えるために布団を救ってくれたというのか」とこぼした。どこからか、「これが人間の温もりだよ、これが人間の温もりだ」という声が聞こえたように感じた。「ああああああ!!!!」俺は叫んだ。今度は雨水ではないとはっきり分かる液体が流れた。その晩は、布団と人間の温もりを感じながら眠りました。